アクティブ株式会社 代表取締役
泉 博伸 氏(いずみ・ひろのぶ)
東京国税局に入局し、国税滞納法人等の調査・差押え等の徴収実務に従事。その後、大手信用調査会社で信用調査、商社審査部で与信リスク管理の実務を経験。
2016年8月、アクティブ株式会社を設立。反社会的勢力・マネーロンダリング・与信・社内不正にまたがる横断的視点でリスク調査に取り組んでいる。また調査業務を通じて得た知見をもとに、審査担当者や営業パーソン向けの研修やブラッシュアップ講座も手掛けている。
コンプライアンスチェック導入コラム
2025年1月31日掲載
コンプライアンスコンプライアンスチェック情報源
こんにちは。このコラムでは、コンプライアンスチェックの実務における基本的な考え方や調査方法について解説します。
初めての方にも理解しやすいよう、例を交えてわかりやすく説明していますので、これからコンプライアンスチェック体制の導入を考えている方から、既にコンプライアンス業務を担当されている方まで、リスク対策に関わる幅広い層の方に読んでいただきたい内容です。
コンプライアンスチェックのプロセス構築にあたって検討すべきことは、大きく分けて以下の3つです。
今回のコラムでは、このうちの「チェックの方法と情報源」について解説します。
まず初めに、取引相手やその候補が本当に実在するか確認をします。
個々の取引相手に対するコンプライアンスチェックは次の手順で行います。
手順1では取引相手を特定し、その関係先を調査してリストアップする作業、つまり要チェック先の選定を行います。これは重要な作業であり、この土台が揺らぐと後のチェックが意味をなさなくなります。
そして手順2のスクリーニング作業では、ヒットした情報から新たな関係先が特定できる場合もあります。その場合は、関係先を再度リストアップし、もう一度データベース等に検索をかけます。つまり手順3の取引判断ができるまで、手順1→手順2→手順1→手順2を繰り返しながらチェックを広げ、深掘りしていくのです。
ここでは、まず手順1のリストアップ作業から、具体的にどのようなことをすべきなのか見ていきましょう。
次に、取引相手の関係先を探索します。
会社・法人であれば商業・法人登記を取得し、登記上きちんと存在する会社かを確認します。登記情報はオンラインで取得できます(「一般財団法人民事法務協会」が同サービスを提供しています)。
また登記情報を取得しなくとも、国税庁 法人番号公表サイトにて商号又は名称で検索できます。ヒットがなければ現時点でその商号又は名称で会社・法人が存在しないことを示します。
名刺情報だけでチェックを進めることは危険です。会社が実在しなかったり、取締役を名乗っているのに、取締役でないといったケースが往々にしてあります(名刺は嘘をつくためにある)。名刺の氏名と登記上の氏名表記が違うケースもあります。この場合は、名刺と登記の表記氏名を併せて要チェック先としてリストアップしておくべきです。
新規取引であれば、相手の事務所などを訪問することが基本となります。本当にそこで営業活動が実際に行われているか実地で確認するのです。訪問した際に、ポストや玄関などに他の企業名が表記されている場合もあります。これら関係先も、現場部門から情報を入手してリストアップしておくとチェックがより確実となります。
なお、現地を訪問した際に確認すべきポイントのチェックリストが含まれた資料をご用意しています。このコラムの下部からダウンロードいただけますので、管理部門と現場(営業部門)とのコミュニケーションにぜひお役立てください。
ただ一方で、「危ない企業」は従業員(営業パーソン等)を訪問させること自体がコンプライアンス上の問題であるという考え方も成り立ちます。商談における雑談において、訪問した従業員の個人情報が収集され、逆に彼らの悪徳商法に悪用されてしまうといったリスクが想定されます。従業員を現地訪問させる前に、一定レベルのチェックを実施し、大きな問題がないことを確認してから訪問させるべきだと思います。
相手が現地訪問を拒否し、喫茶店などを面談場所に指定してきた場合などは警戒すべきです。ただ、自宅を本店登記地として、そこで実際に仕事をしているものの生活の拠点でもあるため訪問者をできるだけ減らしたいということもあるでしょう。その場合は、相手の自宅の最寄り駅の喫茶店などで面談し、付近の地元の話題(美味しい飲食店はどこか、最寄りの税務署や法務局はどこか等)を振ってみて、その土地で実際に生活や事業を行っているのかを感じ取ってみましょう。
現地訪問ができない、あるいは現地訪問の前段階として、WEBのマップ情報やジー・サーチで提供している住宅地図【ゼンリン住宅地図サービス】が活用できます。
ビルのテナント名までも確認できる場合がありますので、実在性チェックの参考情報となります。住宅地図から同居の関係先がわかる場合もあります。
最近ではレンタルオフィスを本店の登記地としているケースも多く見受けられます。バーチャル(住所表記の利用のみ)や、デスク・個室を利用できるシェアオフィスなのか、できれば契約形態を確認したいものです。
あくまで筆者の限定的な経験に基づく個人的な印象ですが、信用金庫・信用組合は創業間もないベンチャー企業や零細企業にとって、その事業を拡大するための有力な支援者となるわけですが、彼らはレンタルオフィスで登記する企業に対して消極的である気がします。その理由は、彼らは営業エリアが限定されているので、容易に低コストで移転できるレンタルオフィスで登記された企業では、取引を長期的に深耕できないと考えるからだと仮説されます。信用金庫・信用組合と取引関係(資金調達できる関係)がない小規模企業については、与信の面からも留意が必要となります。
コンプライアンスチェック(反社チェック、取引審査、信用調査、与信管理等)のご担当者には是非ご留意いただきたいことがあります。それは、ある企業を調べる際に、その企業だけチェックしても、チェックしたことにはならないということです。
なぜなら、検索してすぐにネガティブな情報がヒットしてしまう人物を、企業の役員に据えるはずがないからです。
例えば代表者が過去に役員を務めた企業を調べていると、その企業が行政処分を受けていたり、他の役員が詐欺事件等で摘発されたことのある懸念人物だったりすることがあるのです。
問題が生じた際に「何も調べてないじゃないか?」と責められないためにも、一定の関係先については要チェック先としてリストアップしたいところです。
上場企業であっても油断はできません。上場企業を調べる場合は、有価証券報告書、第2四半期報告書に大株主が記載されますので、まずは直近の大株主および現任役員をリストアップしてチェックしてみます。情勢が不安定な上場会社は、大量保有報告書(5%を超えて株式保有した場合に内閣総理大臣に提出する法定文書)が頻繁に出されます。反市場勢力などに乗っ取りを仕掛けられている場合もあり、大量保有報告書のチェックは重要です。同報告書には、株式買収者の資金源(借入先)も記載されますので実質的な株式所有者を知る端緒となります。有価証券報告書・大量保有報告書は金融庁所管のEDINETで閲覧できます。
不動産登記も重要です。本店所在地の不動産は確認しておきたいところです。所有不動産に対し、素性の知れない会社や個人が根抵当権などを設定している場合は要注意です。税務署や市町村から差押えされている場合は、租税を滞納しており与信的にも危機的な状況にあることが推察されます。せっかく不動産登記を取得したならば、物件を自己所有していなくとも、オーナー(貸主)もリストアップしておくことをお勧めします。もし、オーナーが反社会的勢力に関係するような属性であれば支払っている賃料が彼らの資金源になっているからです。不動産登記も、商業登記と同様に「一般財団法人民事法務協会」でサービスを提供しています。
以上の方法手順1により、関係先を含めた要チェック先のリストアップを行います。次回コラムでは、リストアップされた要チェック先についての記事データベース等を用いたスクリーニング(検索)について説明していきます。
本シリーズの記述内容を整理した『コンプライアンスチェック実践シート』を無料でダウンロードできます。シートの内容に沿ってチェックを進めていくことで円滑にコンプライアンスチェックの実践に取り組めますので、是非ご取得ください。
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